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2014年 第7回全日本最優秀ソムリエコンクールに挑戦して(5)
13.幕切れ
「ベスト12に選ばれてからが勝負」 ずっとそう思っていた。しかし、最後まで番号を呼ばれることはなかった。
、、、終った。
なんともあっけない幕切れ。だが勝負とはそういうもの。
自分の中では、まだ始まったばかり。やっと身体が温まってきたという感覚だった。
が、しかし、この闘いは、ここで幕を閉じた。
後悔がないと言えば嘘になるだろう。だが、これも全て実力。
ファイナリストとの違いは明確だった。
「集中力」と「勝ちたいという執念」そして、この「3年間の過ごし方」
決勝戦を見て、どれも自分は、足りていなかったのだと。
サービス実技では、問題内容を聞き漏れるという、痛恨のミスを犯した。
審査員の意図するとおりに進めていないのなら、それは大きな減点対象だ。
まして実技の配点が最も高いとされていることから、これは自分にとって致命傷とも言えるミスだった。
勝負への意識がもっと高かったなら・・・
審査員の指示も、一言一句聞き漏らすまいという集中力は、もっと出せていただろう。
むしろ、もう一度聞き返すぐらいの執着心は出ていたはずだ。
大舞台に必要な、3つのどれもが足りていない結果が、この一瞬のミスに現れたのだと思う。
だが全ての言い訳はない。
これが今の実力。
そう理解し、ここからまたスタートしていく決意をした。
14.ファイナル
最後の3名に残ったのは、石田博さん。野坂昭彦さん。岩淵真さん。
石田さん以外のお二人は、現在海外のレストランに勤務している。
サッカーで言えば、まさに「海外組」。
今回の課題が、全て外国語で行われたことを考えると、他のソムリエを凌駕した彼らの成果は、「国際経験」という形で結果となり、現れたのは、もしかすると少なからずあるのかもしれない。
「ソムリエ」という職業が、まさに国際的な経験とスキルを求められるということが、今大会の結果を通して現れたように思える。
公開決勝(全て選択外国語での解答)
「黒いグラスでのブラインドテイスティング」
「寿司のコースに合わせて、アジア・オセアニア圏のワインを全て違う国のもので提案する」
「日本のワインリストの間違い探し」
「ダブルマグナムの赤ワインをデカンタージュし、12名のゲストへサーブする」
ここまで残った3名の強者でさえも、大苦戦するほどの難しい課題内容。
しかし、この大観衆を前にして、別格とも言えるプレゼンテーションを見せたのは、2000年のカナダ モントリオール大会で、世界3位という実績を持つ、石田博さんだ。
「L’intensité, discret, plutôt férmé… Légère touche de noyeux, un peu, un petit peu
de touche empyrmatique,.. Le nez, c’est pas très exellement…」
黒いグラスに入った完全ブラインドで供されたワインに、始め戸惑いの表情をされながらも、フランス語でのコメントは、とても流暢で、何より「優雅さ」を感じた。
コメント一つ一つにエスプリを感じる、優しく投げかけるようでありながらも、徐々に力強さを増していくようなコメントに、引き込まれていった。
サービス実技では、さらに他を寄せ付けないほどのパフォーマンスを見せた石田さん。
まさにエースピッチャーを彷彿とさせるマウンド捌きを見せ、今大会のラストを飾った。
15.「空気をつくる」
レストランにおいて、料理をつくるということをしないソムリエの役割、使命とは、一体何なのか。
ワインリストを作成し、ワインを管理、説明し、料理やそのシチュエーションに合ったアイテムを、最も良い状態で、エレガントにサービスをする。
もちろん、それも大切な仕事であるのは間違いない。
私が考えているソムリエの大事な役割とは、
「空気をつくる」ということ。
けして目立つ存在ということではなく、ゲストが主役であるレストランという舞台において、開演前に、周到な舞台準備を整える。
いざ開演すれば、黒子に徹しながらも、そのソムリエがいることにより、安心してゲストが、食事やワインを楽しむことができる。
優雅な立ち振る舞いをもって、「気づき」という武器を手に、空気をつくっていく。
まさに、今大会の石田さんは、会場全体の空気をつくり、そしてチャンピオンに選ばれた。
大会の最後に行われた懇親会で、自身の最終結果は、全国からの本戦出場者32名中の16位と発表された。
大きなミスを犯したことによる、不甲斐ない結果。
だが、周りはそれでも、よく頑張ったと声をかけてくださる方々もいたが、
自分の中では、けして誇ることのできない、完全なる敗北と言える結果に終わった。
16.「No pain, No gain.」
読書は昔から大好きで、今も年間100冊以上のさまざまなビジネス書籍を読んでいる。
ソムリエとして、経営者として、講師として。一人の人間として。
常に自分に必要とされるものを探し、その時々に応じたテーマを選び、がむしゃらに本を読んできた。
ちょうど先日読んだ、ある経営者の方の本に、このような一説が書かれていた。
「No pain, No gain.」痛みのないところに前進はない。
まさに今の自分に刺さる一言。
この痛みは、次に勝利を手にするまでは、ずっと消えることはないだろう。
しかし、「挑戦なきところに栄光はない」
今回、勇気をもって挑戦していなければ、こんなにも多くの、何にも代え難い経験することは、けしてなかっただろう。
この挑戦により、たくさんの痛みを伴ったのは事実。しかし、それ以上にたくさんのことを得ることができたのは、間違いない。
「次の挑戦」に向けてまた、勇気を持って、小さな一歩を踏み出していきたいと思う。
終